*冒頭から文字ばかりが続きますが、とても大切なメッセージを含んでいます。どうか飛ばさずにお読みいただきますようお願い申し上げます。
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【プロジェクトの目的】
富士箱根伊豆国立公園石割山周辺は、中腹にパワースポットとして有名な石割山神社があり、山頂からの富士山の眺望が“富士山がある風景100選”にも選ばれている人気の場所ですが、利用者が多いのにもかかわらず、水や踏圧による洗掘が激しく、長年安全に利用できる登山道とは言い難い状態でした。
このプロジェクトは、「近自然工法」の技術者の指導のもと、地元住民や地元自治体、外部からのボランティア、管轄の環境省と共に登山道補修を進め、継続的に環境保全がなされるよう技術の習得とシステム作りの構築を行い、地域の観光資源の有効活用につながつよう、有意義な社会貢献の活動を目指しています。
【「近自然工法」を取り入れる理由】
「近自然工法」とは、自然の真似をするという発想から、自然に近づける、自然に近い方法を使うこと。人間活動と生存生物の両立を目指す工法です。
元々はスイスで生まれた河川工法で地域気候と地理的条件の中で、大気、水、土壌の働きと生態系の食物連鎖の関係を本来の自然に近づけるという概念をもとに、土木的な工事ではなく、自然界の構造を施工に取り入れる工法を指します。
日本の多自然川づくりの専門家である故福留 脩文氏が、「近自然河川工法」を日本で最初に提唱し、その後、河川だけでなく、登山道の整備や敷地造成などに応用されました。
自然の作用(浸食、運搬、堆積)を考え利用するので、その後の経過観察が必要となりますが、その場所の自然構造に合った施工を行うことで、生態系が復元し、再生した植物が土壌を安定させ、結果的に補修・整備を行った登山道を長持ちさせることが期待できます。
【プロジェクトvol.1について】
環境省のグリーンエキスパート事業(*1)委託費を活用し、NPO法人富士トレイルランナーズ俱楽部の富士山麓環境活動費(*2)と併せ、北海道大雪山から指導者を招き、地元住民やボランティアと一緒に、「近自然工法」での補修作業をスタートさせました。
今後も継続して行っていきます。
*1,グリーンエキスパート事業:国立公園等の貴重な自然環境を有する地域において、地域の自然や社会状況を熟知した地元の住民団体等により、地域の実情に対応した迅速できめ細やか自然環境保全活動を推進し、国立公園の管理のグレードアップを図ることを目的とした事業のこと。
*2,ウルトラトレイルマウントフジ2022大会において実施された「環境負荷軽減プロジェクト サスティナブルサポートガチャ」で集まった¥311,000を寄付金として計上し環境活動費に充当しました。
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こうしてスタートした「石割山登山道補修プロジェクト」
一度でも石割山を訪れたことのある人は記憶に残る悪路だったのではないでしょうか。
その一部がコチラ↓石割神社から石割山に向かう上りの100m弱の箇所です。
*作業箇所マップ「神社石割②」を参照
この現場で行われた作業風景(木階段設置)の一部をタイムラプスでご覧ください↓
10名前後で4,5時間かけて行われたこの箇所の補修作業は、チェーンソー以外全て人力で行われました。
画面に一度も映らないボランティアさんも多く、この場所から50m以上離れた場所から木階段に使える丸太や流失した土壌を運ぶのに何十往復しました。
作業現場近くの倒木、流された土砂などを活用し、「生態系の復元」を第一に考えながら利用者にも使いやすい木階段と水量を抑える効果が期待できる導流工を設置していく9日間の活動報告をお届けします。
尚、この活動は、当法人だけでなく多くの団体、個人のボランティアさんによる「協働・協力」のもと行われています。
<協働・協力団体>
・山中湖村役場(観光課・未来政策課)
・山中湖平野財産区(一般社団法人平野共有財産管理組合)
・忍野村役場(教育委員会)
・忍野村内野特権区(内野忍野村内野地区)
・富士山麓トレイルコミュニティ
・FTRCボランティアネットワーク
・TeamRICKA
・合同会社 北海道山岳整備
・環境省富士五湖管理官事務所
・NPO法人富士トレイルランナーズ俱楽部
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活動日:2022年5月27日(金)~6月5日(日)*5/31休息日を除く合計9日間
活動場所:山梨県山中湖村石割山周辺登山道
活動時間:5月27日(金)朝まで雨の為、10時~12時 座学、13時~16時 現場視察
5月28日以降 各日8時30分~15時30分
指導者:一般社団法人 大雪山・山守隊 代表・合同会社 北海道山岳整備代表 岡崎哲三氏
参加者:ボランティア他作業者数 延べ110名
道具:背負子、かご、テミ、チェーンソー、カケヤ、スリング(ロープ)、十字グワ、メジャー、シャベル、バール、土 砂運搬用袋、ヤシ土嚢袋。ヤシ繊維シート
資材:木材(経20㎝以上、長さ1.5~2.8m)多数、木っ端、流出した土砂多量
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<作業内容>
・「近自然工法」による木階段、導流工設置
・座学2回 ①5/27 10時~12時(参加者9名) ②6/2 19時~20時30分(参加者18名)
<作業箇所>
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<木階段施工手順>
(作業箇所の状況により、手順はその都度検討し変化する)
①資材となる倒木や流失して堆積した土砂を施工現場まで人力で運ぶ。
近自然工法では、可能な限り現場周辺から資材を用意する。
倒木や登山道から流失・堆積した土砂を使用し周辺の自然環境へ与える変化を最小限にする。
日頃から資材になり得るものを確認しておくことが重要。
②施工現場でチェーンソーで丸太のサイズ調整や、足を置きやすくするために表面を平らにする。
③ 幅の狭い登山道では、道幅より少し長い丸太を木階段として設置。
踏み面をかさ上げするために、木っ端や流された土壌を入れる。
④ 侵食により幅の広い登山道は、長く太い丸太を縦に設置。
幅を狭くし、その丸太に引っかけて木階段を作っていく。
⑤ 木階段用の丸太を侵食の幅へ斜めに設置する際に、動かない物がない(ひっかかるものがない)場合には、法面に穴をあけ、丸太の一方をカケヤで打ち差し込む。
こうして出来上がった木階段5箇所の施工前後がコチラ↓
*名称は作業箇所マップ上と連動しています。2枚続きの画像は向かって左が「施工前」右が「施工後」です。
木階段 施行方法1:
侵食が始まる位置(終点)と登山道が安定する(侵食が収まる)位置(起点)
この起点と終点の高さ及び距離を測り、蹴上げが20㎝となるように木階段の段数、丸太の長さなどを算出し、資材を調達して現場まで運搬後、設置する。
流水を蛇行させ、流速を弱めるために木階段の向きは、「ハの字・逆ハの字」
流水と一緒に流れた土砂も、木階段の土留めにより体積していく。
木階段の土留めにより路床のかさ上げ、法面の安定勾配、植生回復を促す。
神社石割① (下から撮影)
トラロープを使用しなければ通行が厳しい箇所も段差が20㎝以下で、各自に歩幅にあわせて歩くことができる「ハの字、逆ハの字」の大変歩きやすい木段を設置した。
木階段の左側は今後、通行者はいなくなり踏圧がなくなることで植生が戻ることを期待。
神社石割② (下から撮影)前出のタイムラプスで紹介した現場
神社石割③ (上から撮影)
様々な人の歩幅にあわせて歩く事ができるハの字、逆ハの字の木階段は、人に優しいだけでなく、
水の流れを蛇行させ(上部で導流工が設置されているので、水量も少なくなっている)運ばれてきた土壌が堆積し
削られた裸地に植生の復元が期待できる。
平尾石割① (下から撮影)
➡水流 木階段によって蛇行し水圧は弱められる。(上部では導流工設置により水流を弱める施工を施している)
➡基礎木 道幅の広い場所は、長い丸太を縦に活用し
神社前 (下から撮影)
導流工 施行方法2:
流水は急斜面と緩斜面の場所で侵食と堆積を繰り返している。侵食箇所の水量を減らすために、上部の緩斜面で排水ができる場所を見極め、太い木材を利用し水量を減らし、流速を弱める。一箇所で急激な排水を行うと二次侵食を招く事もあるので、分散して排水をするために設置。緩やかな流水で上部から土砂が運ばれ侵食箇所に土壌が堆積し、上記の木階段と同じく路床のかさ上げ、方面の安定勾配、植生回復を促す。
導流工ー神社石割C (上から撮影)
導流工ー平尾石割C (上から撮影)
他4箇所設置
その他施工 ヤシ土嚢・ヤシシート
今後は施工箇所の経過観察が必要となります。
地元の方はもちろん、他の地域から参加されたボランティアの方々も、劇的に改善された登山道を見守る気持ちを強く抱いている事が「近自然工法」を取り入れた登山道整備における一番の特徴かもしれません。
もう一つの特徴は、施工場所が周りの自然に溶け込んでいて「あたかも数年前からそこにあったような」佇まいをしていることです。
今回の詳しい施工内容・施工後の考察・計画などは
コチラをご覧ください。
石割山登山道で補修が必要な箇所はまだまだ多く残っています。
補修完了の箇所も継続して見守り、維持管理をしていかなくてはなりません。
地元の想いとボランティアさんの想いを束ねて、この「近自然工法」の考え方と技法で石割山登山道を補修し、石割山だけでなく、富士山麓の登山道歩道整備に広げていければと願っています。